サイン

宅配便が来た。
いつもははんこを忘れてサインで対応する。でも、その日は違った。
なぜかはんこを忘れなかった。きっと河野太郎行政改革・国家公務員制度担当大臣(なげーわ)のおかげだろう。

宅配物を受け取り、伝票にはんこを押そうとすると、宅配業者のお兄さんがこう言った。

「こちらでサインしておきましょうか?」

驚いた。孫悟空風に言えば、おどれぇた。
近頃の宅配業者は代わりにサインまでしてくれるようだ。

これは良いサービスだ。気に入った。
この日以来、僕は彼にサインを頼んだ。

結婚することになり、婚姻届にサインが必要だ。そのときには彼を呼び、代わりにサインをしてもらった。流れで証人のところにも自分の名前を書こうとしだしたから、指の骨を折って止めた。調子のんなよタコ助。
そして子どもができ、出生届を出すことになった。彼を呼び、子どもの名前を代わりに書いてもらった。ついでに父母の名前の欄も書いてもらおうと思い、彼に頼んだが、オプション扱いになるため別料金かかるとか抜かしやがった。札束で頬をペチペチ叩いて書かせた。
家族が増え、家が手狭になった。仕事も順調であったから、マンションを購入することになった。
条件に見合うマンションを見つけ、契約することになった。各種書類を集め、いざ契約しようとした矢先、とある障害があった。印鑑証明の提出を求められたのだ。
いつもの彼を呼び、代わりにサインでやり過ごそうとしたが、そうは行かなかった。
彼は「そりゃそうでしょ」と言った。殴った。

頬をおさえ倒れ込む彼に向かって、僕はピースサインをした。