歯医者で辱められた話

    大学一年生の頃、奥歯が欠けた。家でアホ面しながらウォーキング・デッドを観ていたときのことだ。

    最初は口に異物が入っただけかと思ったが、舌で歯を一つひとつ念入りに確認していくと、左の奥歯が欠けていた。

    生憎歯が欠けた経験がない僕は不安になり、三四郎のDVD『一九八三 〜進化〜』に収録されている、小宮が前歯を治す企画を観た。うっかり相田がキサラに出演する企画も観てしまった。

 

    まずは現状確認をしなければ、と思いスマホを口に突っ込み写真を撮ることにした。しかし皆さんは知らないかもしれないが、スマホっていうのは人の口に突っ込んで写真を撮るように作られていない。

    口の中は暗いためフラッシュを焚くが、フラッシュが強すぎてキレイに映らなかったり、そもそも撮りたい箇所が撮れなかったりする。

    なんやかんやで2時間かけて写真の撮影に成功した。サバンナの草食動物を撮影するくらい時間がかかってしまった。

    ようやく確認してみると、やはり欠けていた。上京してから1度も歯医者にかかったことがないため、すぐさま歯医者を探し、とりあえず近くの歯医者に行くことにした。

    そこはネット予約ができるところで、ホームページのフォームから予約ができる。フォームには日時や名前を入力する欄に加え、症状を入力する欄もあった。そこで僕は、「スマホで撮影したところ、奥歯が欠けているようです」と入力し、予約申請をした。

 

    予約した当日、歯医者に向かった。家から歩いて30秒のところにあったので、直前まで歯を磨きに磨いた。コンパウンドで鏡面磨きでもしそうな勢いで磨いた。

    歯医者につくと、そこは明らかに子ども用の歯医者だった。キッズスペースも完備され、内装もうさぎさんやきりんさんの絵が描かれている。19歳184cmの男の子にはどうしても似つかわしくない。

    今更予約をキャンセルするわけにもいかず、受付を済ませすぐに治療室へ通された。きりんさんに勇気をもらいながら待っていると、歯科医が現れた。

スマホで写真撮ったんだ(笑)」

    開口一番こんなことを言われ、僕は辱めを受けた。僕が2時間かけた作品を馬鹿にされたのだ。嘲笑されたのだ。(笑)が文字になって見えた気がした。ここはワギャンランドでも、先生がコエカタマリンを飲んだわけでもないのに。

    ここから僕の心にポッカリ穴が空き、虚ろな目をして治療を受けた。きりんさんもコチラをみて嘲笑っている。

    実際、歯が欠けたというよりは詰め物が取れただけだったらしく、新しく詰め物をするだけで終わった。

 

    その翌日、新しく入れた詰め物が取れた。それ以来僕は一度も歯医者に行っていない。ポッカリ穴が空いたのは心ではなく歯の方だったのだ。